建設業許可は29の工事業種に分類されており、必要な業種を選択して許可を取らなければなりません。
では、建設業許可を鋼構造物工事取るためには、どのような要件を満たせばよいのでしょうか。
この記事では、鋼構造物工事で建設業許可を取得するための要件や構造物工事に分類される工事などについて、詳しく解説します。
建設業許可での鋼構造物工事とは
建設業許可は、どれか1業種でも取ればどの工事でも自由に請け負えるようになるわけではありません。
そのため、自社が請け負いたい工事がどの工事業種に分類されるのかをよく確認したうえで、許可を取得する必要があります。
国土交通省の資料によれば、鋼構造物工事とは、次のような工事です。
形鋼、鋼板等の鋼材の加工又は組立てにより工作物を築造する工事
鋼構造物工事の具体例
上で紹介した国土交通省の資料によれば、鋼構造物工事に分類される工事の具体例は、次のとおりです。
- 鉄骨工事
- 橋梁工事
- 鉄塔工事
- 石油、ガス等の貯蔵用タンク設置工事
- 屋外広告工事
- 閘門、水門等の門扉設置工事
鋼構造物工事かどうかの判断に迷うケース
自社が請けたい工事が鋼構造物工事であるかどうかの判断に迷うケースもあるかと思います。
判断に迷いやすい工事の分類についての考え方について国土交通省がガイドラインを公表しており、鋼構造物工事に関連する内容は、次のとおりです。
- 『とび・土工・コンクリート工事』における「鉄骨組立工事」と『鋼構造物工事』における「鉄骨工事」との区分の考え方は、次のとおり
- 鉄骨の製作、加工から組立てまでを一貫して請け負うもの:『鋼構造物工事』における「鉄骨工事」
- 既に加工された鉄骨を現場で組立てることのみを請け負うもの:『とび・土工・コンクリート工事』における「鉄骨組立工事」
- ビルの外壁に固定された避難階段を設置する工事は『消防施設工事』ではなく、建築物の躯体の一部の工事として『建築一式工事』または『鋼構造物工事』に該当する
- 『とび・土工・コンクリート工事』における「屋外広告物設置工事」と『鋼構造物工事』における「屋外広告工事」との区分の考え方は次のとおり
- 現場で屋外広告物の製作、加工から設置までを一貫して請け負うもの:『鋼構造物工事』における「屋外広告工事」
- それ以外の工事:『とび・土工・コンクリート工事』における「屋外広告物設置工事」
こちらを確認してもなお判断が難しい場合には、管轄の建設事務所か、許可申請を依頼する行政書士へ確認されるとよいでしょう。
なお、工事分類の考え方は都道府県によって異なる場合がありますので、他の都道府県の事例を参考にすることはおすすめできません。
鋼構造物工事で建設業許可を取得すべき場面
鋼構造物工事を請け負うからといって、実は必ずしも建設業許可を取らなければいけないわけではありません。
鋼構造物工事において、建設業許可を取るべき場面は主に次のとおりです。
税込500万円以上の鋼構造物工事を請けたい場合
1件あたり税込500万円以上の請負金額となる鋼構造物工事を請けたい場合には、鋼構造物工事の建設業許可が必要です。
仮に無許可で税込500万円以上の鋼構造物工事を請けてしまえば、無許可営業として重い罰則(3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人の場合は1億円以下の罰金)の対象となりますので、注意しましょう。
なお、500万円以上かどうかの判定にあたっては、元請けさんや注文者さんから材料の提供を受けた場合、材料の市場価格や運送費を含めて判断しなければなりません。
元請から建設業許可の取得を要請された場合
たとえ500万円以上の鋼構造物工事を請けない場合であっても、元請けさんから建設業許可を取るよう要請された場合には、現実的に許可を取らざるを得ないでしょう。
最近はコンプライアンス意識の高まりからか、建設業許可を持っていない事業者を現場に入れないとの方針を掲げる企業が増えている印象です。
自社の営業力を強化したい場合
自社の営業力を強化したい場合に、建設業許可を取得するケースも存在します。
建設業許可を持っているということは、次で解説をする許可要件をクリアした事業者であるということです。そのため、許可を持っていることが1つのアピールポイントとなることでしょう。
鋼構造物工事で建設業許可を取るための要件
鋼構造物工事で建設業許可を取るためには、次の要件をすべて満たさなければなりません。
それぞれの要件の内容は、次のとおりです。
なお、ここでは初めて建設業許可を取得する多くの事業者様が申請することとなる、一般建設業許可を前提として解説します。
経営管理責任者がいること
建設業許可を取るためには、原則として経営陣(個人事業:個人事業主本人、法人:監査役等以外の常勤役員)のなかに経営管理責任者が存在しなければなりません。経営管理責任者は、しばしば「ケイカン」と略されます。
経営管理責任者となるためには、過去5年以上にわたる建設業の経営経験が必要です。
建設業の経営経験とは、建設業を営む個人事業主としての経験や、建設業を営む法人での役員(監査役等を除く)経験などを指します。
なお、許可業種以外での経験であってもよいこととされていますので、鋼構造物工事以外の工事業種を専門とする建設業者での経験でも構いません。
営業所ごとに専任技術者を配置すること
建設業許可を取るためには、営業所ごとに専任の技術者を配置しなければなりません。
専任技術者は経営管理責任者とは異なり必ずしも経営陣から選出する必要はなく、いち従業員であってもOKです。ただし、営業所に専任である必要がありますので、他社の専任技術者などとの兼任は認められません。
また、仮に退職してしまって他に専任技術者の要件を満たす人がいなければ許可の取り消し原因となりますので、慎重に選任したほうがよいでしょう。
鋼構造物工事の専任技術者となることができるのは、次のいずれかに該当する人です。
鋼構造物工事の現場経験が10年以上ある人
鋼構造物工事について10年以上の現場経験がある人は、鋼構造物工事で建設業許可を取得するにあたって専任技術者となることができます。
なお、経営管理責任者とは異なり、鋼構造物工事以外の他業種での経験年数はカウントできませんので、この点は誤解のないように注意が必要です。
一定の資格を持っている人
次の資格を保有している人は、鋼構造物工事で建設業許可を取得するにあたって専任技術者となることができます。
- 1級土木施工管理技士
- 2級土木施工管理技士(土木)
- 1級建築施工管理技士
- 2級建築施工管理技士(躯体)
- 1級建築士
- 技術士法の「建設「鋼構造及びコンクリート」・総合技術監理(建設「鋼構造及びコンクリート」)」
- 職業能力開発促進法の「鉄工(選択科目「製缶作業」又は「構造物鉄工作業」)※選択科目を「製罐作業」又は「構造物鉄工作業」とするものに限る」※2級は合格後一定の実務経験が必要
- 基幹技能者(登録橋梁基幹技能者)※10 年以上の実務経験を有することが受講資格の一つであり、この受講資格を満たした状態で受講された人が対象
一定の学歴と3年ないしは5年以上の鋼構造物工事の現場経験がある人
次に関連する学科を卒業し、かつ卒業後3年ないしは5年間の鋼構造物工事の現場経験を積んだ人は、鋼構造物工事で建設業許可を取得するにあたって専任技術者となることができます。
- 土木工学(農業土木、鉱山土木、森林土木、砂防、治山、緑地又は造園に関する学科を含む)
- 建築学
- 機械工学
専門の学科で学んだ分、必要とされる実務経験年数が短縮されるイメージです。
なお、経験年数が3年でよいのか5年必要なのかの違いは、次のとおりです。
- 学校教育法による高等学校もしくは中等教育学校の所定学科を卒業した場合:5年
- 学校教育法による大学(短期大学を含む)もしくは高等専門学校の所定学科を卒業した場合:3年
- 学校教育法による専門職大学の前期課程の所定学科修了した場合:3年
欠格要件に該当しないこと
建設業許可には、主に次の欠格要件が定められています。
- 破産して復権を得ていない
- 過去5年以内に建設業許可を取り消されたことなどがある
- 過去5年以内に一定の前科がある
- 心身の故障により建設業を適正に営むことができない
- 暴力団関係者である
欠格要件とは、1つでも該当してしまうと許可が取れないというマイナスの要件のことです。
欠格要件には、個人事業主本人や法人本体のほか、法人の役員(監査役等以外)も確認対象となりますので、当てはまってしまうことのないよう注意しましょう。
一定の財産的基礎があること
建設業許可を取るためには、500万円の財産的基礎があることが必要です。
具体的には、次のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 申請日の直前の決算において、自己資本が500万円以上であること
- 500万円以上預金があること(金融機関の残高証明書で確認)
- 500万円以上の資金調達能力を有すること(金融機関の融資証明書で確認)
通常は、このうち「1」で要件を満たすかどうかをまず確認し、「1」で満たすことが難しい場合に「2」ないしは「3」の要件を確認することとなります。
必要な社会保険に加入していること
2020年10月1日から施行された改正により、適切な社会保険への加入が建設業許可の要件の1つに格上げされました。
そのため、現在はあらかじめ適切な社会保険への加入を済ませておかなければ、許可を取ることができません。
加入すべき社会保険を国土交通省が公表しているこちらの資料で確認のうえ、許可申請の前に加入手続きを済ませておきましょう。
まとめ
この記事では、建設業許可を鋼構造物工事で取得するための要件について、詳しく解説してきました。しかし、建設業許可の要件は多いうえ複雑であり、ご自身や自社が要件を満たしているかどうかの判断に迷う場合もあることでしょう。
また、申請時にはそれぞれの要件を満たしていることを証明するために膨大な書類が必要となりますが、慣れていなければこれらの書類を揃えることも困難です。
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