建設業許可には、さまざまな許可要件が存在します。では、その要件を満たせそうにない場合、何か抜け道は存在するのでしょうか。
この記事では、建設業許可に抜け道はあるのかといったことや、虚偽申請のリスクなどについて、行政書士が詳しく解説します。
「軽微な工事」以外の工事を請けるには建設業許可が必要
建設業を始めるからといって、必ずしも建設業許可を取得しなければならないわけではありません。次の「軽微な工事」のみを請け負うのであれば、許可なく建設業を営んでも問題ないとされています。
- 建築一式工事:請負代金1,500万円未満の工事と延べ面積150㎡未満の木造住宅建設工事
- その他の工事:請負代金500万円未満の工事
この点で、たとえ細々とおこなう場合であっても必ず許可が必要となる飲食業などとは、許可制度が大きく異なっています。
この「軽微な工事」を超えて工事を1件でも請け負う場合には、建設業許可を取得しなければなりません。「軽微な工事」ではない工事を許可なく請けてしまえば、無許可営業として重い罰則の対象となりますので、注意しましょう。
建設業許可なく請けられる「軽微な工事」判定の注意点
建設業許可なく請け負ってよい「軽微な工事」に該当するかどうかを判断する際には、次の3点に注意しましょう。
工事を無理に分割することはNG
500万円未満の工事なら建設業許可がなくても請けられるからといって、本来ひとまとまりである工事を、たとえば契約書上などのみで無理に分割することは認められません。
無理に分割をしても、無許可営業かどうかは結局のところ合算して判定されるため、契約を分割して書面上だけ500万円未満の工事であるように見せかけるような偽装行為はおこなわないようにしましょう。
税込金額で判断する
建設業許可なく請けられる軽微な工事に該当するかどうかの判断は、税込金額でおこなう決まりとなっています。
たとえば、税込金額500万円未満ということは、税別金額に直すと、454万円ほどです。仮に税別で490万円の工事を請けてしまえば税込金額ではゆうに500万円を超えてしまいますので、普段税別金額でやり取りをしている場合には、注意しましょう。
材料提供がある場合には材料費を換算して判断する
工事の注文者や元請企業が工事の材料を提供した場合には、その材料費や運搬費を含めた金額で、軽微な工事に該当するかどうかを判定することとなっています。材料などの提供を受ける場合には、この規定にも注意しましょう。
建設業許可に抜け道はある?
建設業許可には、さまざまな要件が存在します。では、その要件を満たさない場合や証明資料が揃えられられない事情がある場合、抜け道で申請する方法はあるのでしょうか。一般建設業(知事許可)を取得したいという前提で、ケースごとに解説します。
なお、当然ながら違法な行為を勧めるものではなく、虚偽申請のサポートは一切お断りしております。
経営管理責任者がいない場合
経営管理責任者とは、読んで字のごとく、建設業の経営を管理する責任者のことです。建設業許可を取るためには、原則として法人であればその常勤役員(監査役等以外)に経営管理責任者の要件を満たす人がいる必要があり、個人事業であれば個人事業主本人が経営管理責任者の要件を満たす必要があります。
経営管理責任者となれるのは、建設業における経営経験が5年以上ある人です。たとえば、次の場合に要件を満たすことができます。
- 個人事業主として5年以上の建設業経験がある
- 建設業を営む法人で5年以上役員(監査役等以外)を務めていた
- 個人事業主と法人役員(監査役等以外)で計5年以上の経営経験がある
正攻法:5年間の経営経験を積み重ねる
経営管理責任者は、建設業を営む個人事業主や建設業を営む法人での5年以上の役員経験(監査役等以外)があれ要件を満たすことが可能です。この経験は、建設業許可を持っていない個人事業や法人での経験であっても構いません。
そのため、正攻法としては、今建設業を営んでいる自身の事業や自身が役員を務める法人での経験年数をコツコツ積み重ね、5年の要件を満たした際に許可申請をすることです。
正式な「抜け道」①:複数人で要件を満たす
抜け道というわけではありませんが、仮にこの要件を1人で満たすことができない場合には、次の人の経験を組み合わせることで、許可を取得する道もあります。
- 「建設業に関して2年以上役員等としての経験を有し、かつ、5年以上役員等又は役員等に次ぐ職制上の地位にある者(財務管理、労務管理又は業務運営の業務を担当するものに限る)としての経験を有する者」または「5年以上役員等としての経験を有し、かつ、建設業に関し、2年以上役員等としての経験を有する者」
- 財務管理の業務経験を有する者
- 労務管理の業務経験を有する者
- 業務運営の業務経験を有する者
ただし、「1」の者は少なくとも、許可を取ろうとする法人の常勤役員でなければなりません。
また、「2」から「4」の者は「1」の者を直接補佐する地位になければいけませんので、これを組織図などで明確に説明できる必要があります。
さらに、「2」から「4」の者は「許可を受けている建設業者にあっては当該建設業者、許可を受けようとする建設業を営む者にあっては当該建設業を営む者における5年以上の建設業の業務経験に限る」とされており、許可に際して急ごしらえで他社から引き抜いてきた人などでは、要件を満たすことができません。
改正前は「緩和」と言われていた複数人で要件を満たすこの形ですが、実際にはこの形で要件を満たすことができるケースは、さほど多くないのではないかと思います。
可能性があるとすれば、先代の急逝で急遽事業承継をせざると得なくなったにもかかわらず承継者1人では許可要件を満たせない場合に、これまでの「番頭さん」に協力を得ながら改めて許可の維持を目指す場合などでしょうか。
正式な「抜け道」②令3条使用人の経験年数をカウントする
令3条使用人としての経験があれば、その経験年数をカウントすることで経営業務管理責任者の要件を満たせる場合があります。経営管理責任者の要件を満たす経験は原則として建設業での「個人事業主経験」もしくは建設会社での「役員経験」ですが、「令3条使用人としての経験」であってもカウントすることが可能です。
令3条使用人とは、建設業法施行令で次のように規定されています。
(使用人)
建設業法施行令
第三条 法第六条第一項第四号(法第十七条において準用する場合を含む。)、法第七条第三号、法第八条第四号、第十二号及び第十三号(これらの規定を法第十七条において準用する場合を含む。)、法第二十八条第一項第三号並びに法第二十九条の四の政令で定める使用人は、支配人及び支店又は第一条に規定する営業所の代表者(支配人である者を除く。)であるものとする。
また、国土交通省から公表されている許可事務ガイドラインでは、次のように規定されています。
「建設業法施行令第3条に規定する使用人」とは、建設工事の請負契約の締結及びその履行に当たって、一定の権限を有すると判断される者すなわち支配人及び支店又は営業所(主たる営業所を除く。)の代表者である者が該当する。これらの者は、当該営業所において締結される請負契約について総合的に管理することや、原則として、当該営業所において休日その他勤務を要しない日を除き一定の計画のもとに毎日所定の時間中、その職務に従事(テレワーク(営業所等勤務を要する場所以外の場所で、ICTの活用により、営業所等で職務に従事している場合と同等の職務を遂行でき、かつ、当該所定の時間中において常時連絡を取ることが可能な環境下においてその職務に従事することをいう。以下同じ。)を行う場合を含む。)していることが求められる。
許可事務ガイドライン(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001445004.pdf)
以前の勤務先が比較的大きな建設会社等であり、支店長や営業所長などとして建設業に関する契約締結などを任されていたのであれば、令3条の使用人として登録されていた可能性があります。可能性がある場合には、元の勤務先に確認してみてはいかがでしょうか。
正式な「抜け道」③経営管理責任者の要件を満たす人を自社の役員に招き入れる
もう1つ、正式な方法としては、経営業務の管理責任者としての要件を満たす人を、自社の常勤役員として招き入れることです。
経営業務管理責任者は必ずしも代表取締役である必要はなく、代表権のない取締役でも構いません。そのため、5年以上の経営管理経験がある人を役員として迎え入れることで、経営業務管理責任者の設置要件を満たすことが可能となります。一緒に経営をしていけそうな人がいる場合には、自社へ招き入れて一緒に経営をしていくことを検討されるとよいでしょう。
ただし、個人事業の場合にはこの方法を使うことはできません。また、経営管理責任者は常勤役員である必要がありますので非常勤役員では認められず、また他社の経営管理責任者などと兼任することもできません。さらに、許可取得後であってもその人に辞められてしまうと許可要件から外れてしまうと許可が取り消しになるリスクがありますので、あらかじめきちんと話し合って役員に入ってもらうようにしましょう。
違法行為となる抜け道
経営管理責任者の適任者がいないからといって、次のような行為は絶対におこなわないでください。仮にこれらをおこなってしまった場合には、重い罰則の対象となります。
違法行為①:書類を偽造して建設業許可を申請する
自身に過去の建設業経営経験がないからといって、過去の確定申告書や工事契約書などを偽造して許可申請をすること虚偽申請にあたります。このような行為は、言語道断です。
違法行為②:名義借りをする
経営管理責任者に適任者がいないからといって、要件を満たす人の名義だけを借りて登記上だけ役員に入ってもらうようなことは、違法行為の代表例です。役員報酬の額などを調べれば簡単にバレてしまいますし、後々トラブルに発展する可能性も高いため、絶対におこなわないでください。
これまで確定申告をしてこなかった場合や申告書類が残っていない場合
経営業務管理責任者の経験を証明するには、本当にその経験があるかを証明するため、一定の証明書類の提示が必要となります。
愛知県の場合、建設業許可を持たない個人事業主としての経験を証明する場合の提示書類の1つに、次のものが存在します。
- 必要年数分(個人事業主経験だけで5年の経営経験を証明するなら5年分)の確定申告書
- 市区町村発行の所得証明書
実際には個人事業を開業して5年以上建設業を営んできたにもかかわらず、開業直後の数年は確定申告をしていなかったという場合、この書類を提出することができません。また、せっかく申告をしていても確定申告書の控えを保存していなかった場合には、手元に資料がありません。
では、この場合の抜け道はあるのでしょうか。
正式な「抜け道」①:税務署へ開示請求をする
確定申告はきちんとしていたものの手元に控えがないだけである場合には、管轄の税務署へ開示請求をすることで、確定申告書の控えを入手することができます。確定申告はしっかり行っていた場合には、この方法で解決できることが多いでしょう。
ただし、請求から開示までには1か月ほどの期間がかかることが通常です。また、あまり古いものは再発行できない可能性もあります。
将来、建設業許可の取得を考えている場合には、確定申告書の控えに収受印をもらいきちんと保管しておきましょう。
正式な「抜け道」②:さかのぼって確定申告をする
確定申告をしていなかった場合、一定期間であれば、遡って確定申告をすることが可能です。管轄の税務署や税理士へ相談の上、改めて確定申告をして控えを受領することも検討するとよいでしょう。
ただし、本来確定申告をすべきであった(納税額が出ていた)にもかかわらず確定申告をしていなかった場合には、利息的な意味合いの延滞税が追加で課されるほか、無申告加算税の対象となる可能性があります。
確定申告について詳しくは、税理士もしくは管轄の税務署へご相談ください。愛知県内の管轄税務署については、国税庁のHPに案内があります。
正式な「抜け道」③工事関連の書類を多く提出する
確定申告書の内容に不備がある場合(収支内訳書の売上金額の明細や青色申告決算書の月別売上金額が
確認できない場合など)、愛知県の場合には、次で解説をする工事契約書や工事に関する請求書を通常よりも多く(通常は年1件分でよいところ、月1件)提出することで、要件を満たしていると認められる場合があります。
ただし、これは個別事情に合わせて建設事務所へ事前相談する必要がありますので、期間内に一切確定申告をしていない場合にまでこの方法で必ず何とかなるということではありません。
また、個人的な感覚で大変恐縮なのですが、確定申告をきちんとされていないにもかかわらず工事契約書や請求書などは月1件以上きちんと保管できているケースは、さほど多くないのではないかと思います(当然ながら、工事契約書などの偽造はもってのほかです。)。
あくまでも、やむを得ない事情がある場合の1つの可能性として知っておくとよいでしょう。
違法行為となる抜け道:書類の偽造
確定申告をきちんとしていなかったからといって、確定申告書や税務署の収受印などを偽造して申請することは重大な違法行為です。建設業法の虚偽申請にも該当するほか、有印公文書偽造など他の重い罪に問われる可能性がありますので、絶対におこなわないようにしましょう。
これまで工事契約書を作成してこなかった場合
建設業許可を持っていない法人での役員経験や個人事業主としての経験で経験経営業務管理責任者の要件を満たしていることを証明するには、本当にその経験があることを証明するため、工事を請けていたことの証明書類の提示も必要となります。
愛知県の場合、次の1から3のいずれかを原則として年1件分(確定申告書等に不備がある場合には月1件分)、提示やコピーの提出が必要です。
- 工事契約書
- 注文書+それに対応する請書控
- 注文書、請書控、請求書のいずれか+それに対応する入金が明確に分かるもの(通帳や金融機関が発行する預金履歴など)
では、これらの書類に不備がある場合、抜け道はあるのでしょうか。
違法行為となる抜け道:書類の偽造
残念ながら、これらがいずれもそろっていない場合、正式な抜け道を見つけることは困難です。実際にその期間において建設業を営んでいる以上は、たとえ契約書まではなかったとしても、少なくとも「請求書や注文書」の発行や、通帳への入金はあるはずであるためです。
また、入金がされた通帳が更新され、古い通帳を捨ててしまっている場合であっても金融機関からの入出金履歴を取り寄せることで確認できますので、これも資料を出せない理由にはなりません。
これらの資料がいずれもない状態で「工事をおこなっていました」と主張をしても、やや無理があるでしょう。
なお、「3」で請求書などの金額と通帳などへの入金額が相違する場合には、その相違を説明できる書類(2つの工事代金がまとめて支払われた場合などは、もう1つの工事の請求書など)を提示できれば問題ありません。
当然ながら、工事契約書の偽造などは違法行為に該当しますので、おこなわないでください。
専任技術者がいない場合
建設業許可を受けるためには、営業所へ専任技術者を配置しなければなりません。専任技術者となることができる人は、次のいずれかの要件を満たす人です。
- 所定の資格を保有している人
- 所定学科の高校または大学卒業後、5年または3年以上の実務経験のある人
- 許可を取得しようとする業種について10年以上の実務経験のある人
なお、所定の資格は許可を取ろうとする業種ごとに異なりますので、国土交通省が出しているこちらの表を参照してください。一般建設業許可の場合、「〇」か「◎」が付いていれば専任技術者としての要件を満たします。
この専任技術者は、上で解説をした経営管理責任者と同一の人でも構いませんし、役員などではなく一般の従業員でも構いません。
では、専任技術者の適任者がいない場合には、どうすればよいのでしょうか。
正攻法:専任技術者の要件を満たす資格を取得する
正攻法としては、自身や自社の従業員が、専任技術者の要件を満たすようにすることです。国土交通省が出しているこちらの表を参照のうえ、取得したい業種で専任技術者となれる資格を取得することが、もっとも早道かと思います。ただし、資格によっては取得後一定期間の実務経験が必要となりますので、取得を目指す資格を選定する際に、あらかじめ確認しておいてください。
また、資格取得ではなく、10年の現場経験を積み重ねることで専任技術者の要件を満たす方法もあります。
ただし、単なる「人工出し」や、工事に該当しない清掃や定期メンテナンスの請負では経験年数にカウントできませんので、注意しましょう。
正式な「抜け道」:専任技術者となる要件を満たした人を雇用する
正式な抜け道としては、専任技術者となる要件を満たしている人を新たに雇用することです。経営管理責任者とは異なり、いち従業員としての雇用で構いません。
ただし、専任技術者は自社に常勤である必要があります。また、専任技術者は許可の取得時のみならず、許可を維持するためにも必要な存在です。
専任技術者の要件を満たす人がほかにいない状態で退職されてしまえば許可を失ってしまいますので、「とりあえず許可申請までの間いてもらえばよい」など軽い気持ちで雇用することは避けましょう。
違法行為となる抜け道
次のような行為は、違法です。重い罰則の対象となりますので、絶対におこなわないでください。
違法行為①:経歴を偽装したり資格証明書を偽造したりする
専任技術者の要件を満たす人がいないからといって、嘘の経歴を申請したり資格証明書を偽造して資格を持っているように見せかけることなどは、絶対におこなわないでください。虚偽申請に該当するほか、資格証明書の偽造は資格の種類によって有印公文書偽造などの罪にも問われる可能性があります。
違法行為②:名義借りをする
名義借りは、虚偽申請の代表例です。専任技術者となる人がいないからといって、名義借りをすることは絶対に避けましょう。
なお、愛知県では専任技術者の常勤性を確認するため、専任技術者の健康保険証(許可を取得しようとする建設業者様の名称が入ったもの)などの写しの提示が求められます。名義借りの場合にはこれらの書類も偽造することになるでしょうから、偽造する書類によって公文書偽造などの罪も上乗せされる可能性があります。
欠格要件に該当してしまっている場合
建設業許可には、一定の欠格要件が存在します。欠格要件とは、1つでも当てはまってしまったら許可できないという要件のことです。
建設業許可の欠格要件に関係するのは、個人事業主本人や法人自体のほか、法人の役員等(監査役など以外)です。
建設業許可における主な欠格要件には、次のものが存在します。
- 破産して復権を得ていない
- 過去5年以内に建設業許可を取り消されたことなどがある
- 過去5年以内に一定の前科がある
- 暴力団関係者である
このなかで、特に注意すべきは「一定の前科」です。具体的には、過去5年以内に次の前科がある場合には欠格要件に該当します。
- 禁錮以上の刑に処された
- 次の規定に違反して罰金刑に処された
- 建設業法
- 建築基準法、宅地造成等規制法、都市計画法など建設工事に関する法規
- 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定
- 刑法204条(傷害)、第206条(現場助勢)、第208条(暴行)、第208条の3(凶器準備集合及び結集)、第222条(脅迫)、第247条(背任)の罪
- 暴力行為等処罰に関する法律
では、欠格要件に該当してしまっている場合、どうすればよいのでしょうか。
なお、執行猶予が付いた場合には、執行猶予期間さえ無事に満了すれば、5年を待たずに許可申請をすることができます。執行猶予期間が満了した時点で、刑の言い渡し自体がなかったことになるためです。
正攻法:欠格要件が解除されるまで待つ
欠格要件に該当してしまった場合、建設業許可を取得するための正攻法は、欠格要件が解除となるまで待ってから許可申請をすることです。
たとえば、仮に暴行などで罰金刑に処されてしまった場合であっても、刑の執行から5年が経過すれば許可を申請することができます。
正式な「抜け道」①:欠格要件該当者を役員から外す
個人事業主本人が欠格要件に該当してしまった場合にはどうすることもできませんが、法人の役員の1人が欠格要件に該当してしまった場合には、原則としてその人を役員から外すことで許可申請をすることが可能となります。
ただし、建設業法で欠格要件に該当するのは、登記上の役員のみならず、次の人である点に注意が必要です。
業務を執行する社員、取締役、執行役若しくはこれらに準ずる者又は相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役若しくはこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者をいう。
建設業法5条1項3号(「役員等」の説明)
つまり、登記上は役員から外したとしても、その後も実質的にその法人の役員と同等以上の支配力を持っているのであれば、その人は建設業法上の「役員等」に該当してしまいます。このあたりは実質的に判断されることとなり、表面上役員から外したからといって100%問題がないわけではありませんので、慎重な判断が必要です。
違法行為となる抜け道:欠格要件を隠して申請する
欠格要件に該当してしまっているにもかかわらず、そのことを隠して申請することは絶対にやめてください。これは、虚偽申請として罰則の対象となります。
そもそも、破産している場合には添付書類である「身分証明書」にそのことが記載されますので、書類の偽造(当然NGですし、公文書偽造の罪となります)をしない限り申請が受理されません。
また、前科などは仮に申請時に発覚しなかったとしても、申請後の調査で発覚して不許可となる可能性が高いでしょう。この場合には、9万円の許可申請手数料も無駄となります。
自己資本が500万円ない場合
建設業許可の要件の1つに、財産的基礎が500万円以上あることが存在します。これは、原則として直近の決算書の自己資本の欄で確認します。では、直前決算で自己資本が500万円なければ、絶対に許可申請ができないのでしょうか。
正攻法①:残高証明書で500万円以上の残高を証明する
財産的基礎の証明方法は都道府県によって異なる可能性がありますが、愛知県の場合には、たとえ直近決算の自己資本が500万円未満であっても、金融機関から取得した500万円以上の残高証明書を提出できれば問題ありません。
ただし、この残高証明書は、建設業許可申請をする直前の日付(基準日が申請直前4週間以内のもの)である必要がありますので、取得するタイミングに注意しましょう。また、1か所の金融機関のみで500万円以上の残高を証明できることが望ましいのですが2行以上に分かれる場合には、基準日が同一のものである必要があります。
正攻法②:融資証明書で500万円以上の融資見込みを証明する
愛知県の場合、直前決算における自己資本が500万円未満であり、かつ預金残高も500万円未満である場合には、500万円以上の融資証明書を添付することで許可要件を満たすことができます。融資証明書とは融資残高の証明ではなく、融資可能額の証明のことです。
こちらも、残高証明書と同様に建設業許可申請をする直前の日付(基準日が申請直前4週間以内のもの)である必要がありますので、取得するタイミングに注意しましょう。
正攻法③:営業努力をして自己資本を積み上げる
建設業許可申請を特に急がない場合には、当期に営業努力をして自己資本で要件を満たせるようにしたうえで、翌期の決算が確定した後で建設業許可申請をすることも選択肢の1つとなります。
違法行為となる抜け道:決算書や残高証明書を偽造する
正攻法では要件を満たせないからといって、決算書や残高証明書を偽造することなどは絶対におこなわないでください。これらは虚偽申請として罰則の対象となるほか、文書偽造などの罪にも問われます。
社会保険に加入していない場合
令和2年10月1日から、建設業許可取得の要件に社会保険への加入が追加されています。加入すべき社会保険は、それぞれ原則として次のとおりです。
- 法人:健康保険、厚生年金、雇用保険
- 常時使用する従業員が5人以上の個人事業主:健康保険、厚生年金、雇用保険
- 常時使用する従業員が5人未満の個人事業主:国民健康保険、国民年金、雇用保険
- 1人親方:国民健康保険と国民年金
加入すべき社会保険について、より詳しくは国土交通省のホームページをご参照ください。
正攻法:社会保険に加入してから建設業許可を申請する
社会保険への加入が許可要件となる以前は、近日中に加入する旨の誓約書などを提出することで許可がされていました。しかし、現在ではこの方法は使うことができません。
建設業許可申請をする前に、適切な社会保険への加入を済ませておきましょう。
違法行為となる抜け道:書類を偽造する
社会保険への加入は、健康保険及び厚生年金保険の保険料に係る「領収証書」の写しなどの書類で確認がされます。社会保険に加入をしていないからといって、これらの書類を偽造して申請することは犯罪です。絶対におこなわないようにしましょう。
建設業許可を虚偽申請した場合のリスク
建設業許可の虚偽申請は、絶対におこなわないでください。仮に虚偽申請をした場合のリスクは、次のとおりです。
建設業法上の罰則が適用される
虚偽申請は、次のとおり、建設業法上の罰則が適用されます。
第四十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
建設業法
一~四 (略)
五 虚偽又は不正の事実に基づいて第三条第一項の許可(同条第三項の許可の更新を含む。)又は第十七条の二第一項から第三項まで若しくは第十七条の三第一項の認可を受けた者
2 前項の罪を犯した者には、情状により、懲役及び罰金を併科することができる。
第五十三条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人、その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
建設業法
一 第四十七条 一億円以下の罰金刑
法人の場合には1億円以下という巨額の罰金が科される可能性があるほか、個人に対しては懲役の可能性もある非常に重い罪にあたります。
刑法上の犯罪に該当する
虚偽申請にともなって書類を偽造した場合には、刑法上の次の罪に問われる可能性があります。
(公文書偽造等)
刑法
第百五十五条 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
(偽造公文書行使等)
刑法
第百五十八条 第百五十四条から前条までの文書若しくは図画を行使し、又は前条第一項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。
(私文書偽造等)
刑法
第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
(偽造私文書等行使)
刑法
第百六十一条 前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。
いずれも、懲役の可能性がある非常に重い罪です。
5年間は許可が取れなくなる
上で解説をしたとおり、建設業許可には欠格要件が定められています。このうち、次の規程にご注目ください。
第八条 国土交通大臣又は都道府県知事は、許可を受けようとする者が次の各号のいずれか(許可の更新を受けようとする者にあつては、第一号又は第七号から第十四号までのいずれか)に該当するとき、又は許可申請書若しくはその添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているときは、許可をしてはならない。
建設業法
七 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者
八 この法律、建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労働者の使用に関する法令の規定で政令で定めるもの若しくは暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)の規定(同法第三十二条の三第七項及び第三十二条の十一第一項の規定を除く。)に違反したことにより、又は刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百四条、第二百六条、第二百八条、第二百八条の二、第二百二十二条若しくは第二百四十七条の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者
つまり、虚偽申請により罰金以上の刑が確定した場合には、そこからさらに5年間は欠格要件に該当するため、建設業許可が取得できないということです。建設業許可の虚偽申請には非常に重いリスクがありますので、絶対におこなってしまうことのないよう注意しましょう。
まとめ
建設業許可には、さまざまな要件が存在します。しかし、要件を満たしていないからといって、虚偽申請など違法な抜け道で申請をすることは絶対に避けるべき行為です。
正攻法で許可要件をクリアするか、他の正当な方法で申請をして、長くまっとうに続けられる建設業経営を目指しましょう。
なごみ行政書士事務所では、知多半島や名古屋市の建設業許可申請を代行・サポートしています。ご依頼をご検討頂いている方は、下記「対応エリアと料金体系」をご覧いただき、コンタクトフォームまたはお電話にて、お気軽にお問合せくださいませ。
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